海のクマムシの進化史

化石の話

生き物の進化を語るうえで化石は欠かせません。
でもクマムシみたいに、柔らかくて小さい生き物の化石なんてあるのだろうか?
あるのです(ちょっとだけ)!
クマムシで間違いない!と断言できる化石は白亜紀の琥珀の中から発見されています。

1. Beorn leggi Cooper, 1964
本種は6-8千万年前の琥珀から発見された真クマムシ綱の種です。爪の形と並び方が、現生のどのグループとも似ていないので、この種のためにBeorn(属)とBeornidae(科)が設立されました。本種の発見から、白亜紀には真クマムシ綱が出現し、陸上進出も果たしていたと考えられます(真クマムシ綱の出現と陸上進出の順番は不明)。 ちなみに、Beornは、J.R.R. トールキンの「ホビットの冒険」に登場する獣人ビヨルンに由来します。
本種について詳しく知りたい方は以下の原典をお読みください。
Cooper, K. W. (1964) The first fossil tardigrade: Beorn leggi Cooper, from Cretaceous amber. Psyche 71, 41-48.


2. Milnesium swolenskyi Bertolani & Grimaldi, 2000
9千万年前の琥珀から発見されたオニクマムシ属(現生)に分類できる種です。どうやらオニクマムシ属は息の長い分類群のようです。

3. 異クマムシ綱の幼体?
Milnesium swolenskyiと一緒に発見された保存状態の悪い、不明な点の多い化石です。名前は付けられませんでした。

この2種について詳しく知りたい方は以下の原典をお読みください。
Bertolani, R., Grimaldi, D. (2000) A new eutardigrade (Tardigrada: Milnesiidae) in amber from the upper Cretaceous (Turonian) of New Jersey. In: Grimaldi, D., (Ed.), Studies on fossils in amber, with particular reference to cretaceous of New Jersey. Backhuys Publishers, Leiden, NL, pp. 103-110.


以上が確実にクマムシだとわかる化石記録の全てです。琥珀から見つかっていることから陸のクマムシです。今のところ海のクマムシの化石と呼べる確かなものはありません。
海のクマムシかもしれない化石の記録は一つだけあります。それはカンブリア紀の化石なのですが、体表、感覚器官、爪と思しきものからクマムシっぽいのですが、肢が3対しかなく(現生クマムシ類は例外なく4対)、クマムシの範疇に入るのか怪しいです。
詳しくは、以下の原典をお読みください。
M:uller, K. J., Walossek, D., Zakharov, A. 1995. ‘Orsten’ type phosphatized soft-integument preservation and a new record from the middle Cambrian Kuonamka formation in Siberia. N. Jb. Geol. Paleont. Abh. 197, 101-108.




DNAの話

これまでに見つかったクマムシの化石で、クマムシの進化を語るにはいささか情報が不足しています。化石の他に、進化を明らかにするアプローチとして遺伝子を用いたものがあります。
この手法では、時間に比例して、変異(違い)が一定の速さで蓄積していくと仮定して(分子時計仮説)、現生の種間の変異の蓄積量から、相対的にどのくらい昔にそれぞれの進化の道筋を歩み始めたのかを推定します。管理人らが行った研究の結果…
つづきは、2016年公開予定!